PBL教育について
日本歯科大学新潟生命歯学部では平成16年度後期より、『PBLテュ-トリアル』という教育手法を全国29の歯学部に先駆けて実施しています。
1.PBLとは
PBLはProblem Based Learningの略称で、問題基盤型学習と訳されています。
従来型の講義では増大する医学情報を学生に伝えるのに、いくら授業時間を増やしても追いつきませんでした。教師も学生も疲れ果て、かつ学生の身につく知識量は、伝えた情報の数%以下となっているのが現状でした。さらに、知識がいくらあっても、それを実際の場で適用し問題を解決しなければ、その知識は役に立ちません。それと対照的なのがPBL(問題基盤型学習)なのです。
「まず初めに問題ありき」という発想で、まず最初に、課題シートと呼ばれる紙が学生に配られます。学生はその文章から問題点を拾い上げ、学習目標・仮説・問題解決の手段を明らかにします。次に自己学習で情報収集・分析・問題解決を行い、グループ討論により結果を確認し、問題解決のプロセスを修得してゆくのです。
カナダのMcMaster大学で始められ、Havard大学を含む世界の革新大学が取り入れ、わが国では東京女子医科大学、次いで岐阜大学が先導的にそれに踏みきり、系統講義がなくなりました。
2001年版の『医学教育カリキュラムの現状』によりますと、80校中46校が実施しています。
2.テュートリアルとは
テュータ(※次項参照)による少人数教育の一般的な総称です。従来のセミナーや個別学生指導もこの中に入ります。テュータが少数学習者に対して個別指導をする教育形態を指します。しかし、医学教育では、小グループで討論をしながら学生自身が主体的に学ぶ学習方法を意味することが多いです。そこで従来の一般的なテュートリアル教育と区別する意味もあってPBLテュートリアルと略されています。
つまり、PBLテュートリアルを厳密に定義しますと、「PBL」を「テュートリアル」という教育方式で行うこと、と言えます。
3.テュータとは
学生の自己開発型学習訓練を援助する「教員」のことです。
PBLテュートリアルの目的は、学生が自力で学習課題を発見し、それを自学自習によって解決する訓練をすることにあるので、テュータは知識を直接教えるのではなく、学生が自分の力で必要な知識を獲得することが出来るように問題解決のプロセスをサポートする黒子役となります。
4.日本歯科大学におけるPBLテュートリアルの導入目的と意義
本学におけるPBLテュ-トリアルの導入目標は「全人的歯科医師の養成」です。つまり、歯科医師国家試験の合格だけを目標にするのではなく、悩める患者の訴えに耳を傾け、生涯にわたり問題を自分で解決できるよう『心・技術・知識』の全てを兼ね備えた歯科医師を養成することが大切なのです。
新潟生命歯学部では、講義中に学生の私語、居眠り、抜け出し、携帯電話の使用など様々な問題を抱えていました。さらに、近年の歯科医学・医療の急速な進歩と知識量の増加で、6年間における大学教育で全てを教えることは不可能になっただけでなく、教えられた知識はすぐに古くなってしまいます。このことは従来の講義形式に限界があるということを示していると言えます。
PBLテュ-トリアルでは、自己学習能力の育成、コミュニケーション能力の育成、問題発見、解決能力の育成、生涯における活用技術の修得、情報収集能力の修得ができます。卒業後も生涯にわたり、自ら最新の知識を導入し、診療問題を解決していかなければなりません。そのためにもPBLテュ-トリアルは有効なのです。
5.3段階の累進型のPBLテュートリアル
新潟生命歯学部では学習課程の進行に対応した3段階の累進型のPBLテュートリアルを実施しています。
第1段階では学び方を学ぶことに目標をおき、第2段階では関連領域を統合して学ぶことに目標を置きます。
将来においては第3段階として第5学年に診療問題の解決方法を学ばせ、実際の診療で遭遇する問題を解決することに目標を置いています。
学習課程:第1段階
実施時期 |
第1学年 |
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教育の目標 | 学び方を学ぶ (学習項目発見型) |
課題内容 | ・発想力の育成を目的とした課題・学生に興味や疑問を抱かせる内容で終了時には一応の達成感が得られるもの |
学習課程:第2段階
実施時期 | 第3学年 |
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教育の目標 | 関連領域を統合して学ぶ (基礎臨床統合型) |
課題内容 | ・関連領域全体に広がりのあるもの・基礎と臨床の統合 |
学習課程:第3段階
実施時期 | 第5学年 |
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教育の目標 | 診療問題の解決方法を学ぶ (診療問題解決型) |
課題内容 | ・臨床推論・人間関係、態度、倫理・疫学、保健・行動、心理 |