日本歯科大学新潟生命歯学部 医の博物館

展示品ギャラリー

抜歯器具 歯鍵(しけん)

抜歯器具 歯鍵(しけん)

笑気ガスやエーテル麻酔による無痛抜歯は、1840年代にアメリカの歯科医ウェルズやモートンたちによって開発された。

未だ麻酔法が確立しない19世紀の半ばまでは、いかに手早く歯を抜き、処置するかがポイントとなった。鍵を開けるのと同じ要領で、爪の部分を臼歯に引っ掛け、テコの原理でひねって抜くことから、Tooth-key=歯鍵(しけん)と呼ばれた。
爪の部分は歯の大きさなどに合わせて取りかえられたり、柄の部分に支点を2カ所設けたものなど、さまざまな形が考案された。

イギリスやアメリカでは、1850年代から現在のような抜歯鉗子が使われるようになるが、1823年にオランダ商館医として長崎に来航したドイツ人医師シーボルト携行の外科器具の中に、この「歯鍵」もあったという。また幕末の安政6年(1859)刊行された杉生方策『内服同功二編』では「臂鉤(ひこう)」の名で、その図版と用法が紹介されている。

明治初期の翻訳医書(森鼻宗次訳:独徠氏外科新説、明治7年)でも、「杻匙(ちゅうし)」の名称で抜歯器具として紹介された。
同書の抜歯の項では、"Extraction of the Teeth"の原文に「抽歯術」の訳語をあて、「エキスラクション、オブ、ゼ、テース」とカナをふっている。